2008年5月23日金曜日

今週の倫理 (560号)より 知ってることはやらなきゃ意味ない

四月に入社した新入社員も、一カ月を経過して、少しずつ職場の雰囲気にも慣れてきたころではないでしょうか。
音楽情報サービスのオリコンがインターネットを利用して、二〇代、三〇代、四〇代の男女各一五〇人、合計九〇〇人を対象に「新入社員に対して求めたい力」というアンケート調査を行なったところ、第一位には「挨拶力」がランクしました。

技術的な能力よりも、人としての基本的な能力といえるものが一位となったところに、深く注目すべきでしょう。続く第二位は「行動力」、三位は「人間力」となっており、《どれだけ仕事ができるか》よりも、《人として当たり前のことができるか》が必要であるという結果です。

しかし、これは見方次第では「社会人となる年齢になっても当たり前のことが出来ていない」からこそ「求めたい力」となっているともいえるでしょう。

さらにもう一歩突っ込んだ見方をすれば、「当たり前のことが出来ない新社会人」を生み育てたのは、他でもない「求めたい力」として回答した、いや、もっと上の世代をも含む「人生の先輩たち」であるという事実が浮かび上がります。

戦後復興の中、わが国は物の豊かさを追い求め、心の部分をどこかに置いてきてしまいました。人としての基本的な能力よりも、試験をパスするための学問(技術)を詰め込まれ、いわゆる良い学校、良い会社に入ることが、豊かな生活への入り口だと信じてきたのです。

確かに生活は豊かになり、多くの物やサービスを手にすることが出来るようになりました。ただ、その半面、失われたものの数は計り知れず、たとえば倫理や道徳などの範疇に含まれるものは、もともとが目に見えないものだけに、何を失い、何を取り戻さなければならないのかが実は分からないという、非常に厄介な状況に陥っています。その改善策として、冒頭で紹介した「求めたい力」の調査結果は非常に有効なものと考えられます。

どうやら「挨拶力」という基本的な部分が大切であるという点は、多くの人が分かっているようです。ただ、分かってはいながらも「行動力」が伴わず、挨拶を交わすことが少ないので、コミュニケーション能力である「人間力」も欠けてくる、という図式になるのです。

答えは簡単です。要は、正しいと思っていることを「行動」に移すだけです。机の上で分かっていることも、動いてみてこそ初めて意味を持つのです。

今や義務教育以上の就学率は、中等教育(高等学校)で限りなく一〇〇%に近くなり、中等教育卒業者のうち二人に一人は高等教育(大学・短大・大学院)へ進学する時代です。この数字と世相を見比べれば、必ずしも知識の高い人が世の中を良くするとは言えないようです。

世の中を良くしていくのは、最後は一人ひとりの「行動」です。「挨拶をする」「ゴミを拾う」「ポイ捨てをしない」など、日常の中にある当たり前のことを、当たり前にできる社会の一員として、世の中に貢献したいものです。

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