2008年10月10日金曜日

今週の倫理 (581号)より 身を粉にして働き 限界までやり抜こう

山陰のとある街に一軒の八百屋がありました。商店街の店主が集まると、その八百屋の店主のことで話が盛り上がりました。

 それというのも、八百屋の店主の働きぶりが「すさまじい」の一言なのです。とにかく並ではない、目覚めたら朝何時であろうと店を開ける、時には三時であったり四時であったり、周囲は夜の闇に包まれ人ひとりいないというのに、この八百屋だけは煌々と明かりが灯っているのです。朝早いので閉店は早いかというと、夜は十一時過ぎまで営業しています。しかも土日祝日いっさい関係なく、三六五日やっています。

 八百屋のすさまじい働きぶりを目の当たりにしている商店街のおかみさんたちは、嫌味たっぷりに亭主の尻を叩きます。

「亭主に八百屋の店主の爪の垢でも煎じさせて飲ませれば、少しはましになるだろう。休みになると接待ゴルフとか視察旅行とか遊びほうけて仕事そっちのけだから…」

こんな嫌味を言われ続けている店主たちは、時おり会合に顔を出す八百屋をつかまえて、「お前、そんなに仕事仕事と、休みなく働いているが、何がいったい楽しいんだ。一度しかない人生だったらもっと楽しまなければいけないよ」と言ったり、「そんなにこんをつめて働くと、体を壊すぞ」と忠告したり、「そんなに金貯めて何に使うんだ。食べられるだけあればいいではないか」と呆れたりです。また「お前のおかげで俺たちがどれだけ迷惑しているか、わかっているのか。もう少し周りに気を配れ」と、酒の席などではしつこくからむ者が出る始末です。

 いつの頃からか、商店街の中では「あの八百屋は頭がおかしいんだ」ということになってしまいました。ある日、いつものように酒に酔った洋品屋の店主が「おい、頭のおかしな奴」と言ったときのことです。普段は一言も反論しない八百屋が、からんだ相手の顔をキッと見据えて「みんなは俺をつかまえて頭がおかしいというが、俺の働きなど中途半端だ。隣の街にはもっと狂った奴がいるぞ」と言ったのです。その一言でその場は凍りつき、皆の頭に隣町の肉屋の顔が浮かびました。

 その後、八百屋を揶揄していた人たちは、大型店の進出とともに転業廃業に追い込まれました。八百屋はその働きぶりが認められ、今は異業種にも手を伸ばして地域一番店として頑張っています。

 今という時代は厳しく、経営の舵取りが難しい時代ではあります。何でもありの日々で、まさかの連続でもあります。売り上げはジリジリと落ち込み、その原因を他人や社会のせいにしたがる気持ちはわからないでもありません。しかし、それでは何の解決にもならないでしょう。お客様はどの店が本物で、どの店がそうではないということを鋭く見分けます。お客様に支持されるお店でなければ生き残れないのです。

 お客様のために、身を粉にして働いて働いて働き抜いている店であれば、必ずや繁栄店になれるはずです。人は人の集まるところに集まるもの。まずトップ自らが喜びの働きに徹し抜くこと。間違っても怠け心を出すことなく、周囲に「おかしな奴」と言われるぐらいまでやり抜きましょう。

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