食品業界の一部企業による、賞味期限の改竄や産地の偽装。公立学校の教員採用に関する贈収賄事件。はたまた居酒屋タクシーなるものの、日本の中枢官庁街である霞ヶ関界隈への出没。連日、性懲りもなくと思えるほど、モラル低下の深刻さが報道される日本の現況です。
一九四六年、アメリカ人の文化人類学者ルース・ベネディクト女史は、著書『菊と刀』の中で独自の日本人論を展開し、日本文化を「恥の文化」と規定しました。しかし戦後六十年以上が経過した今、日本人が持っていたといわれる「恥じる」という高い精神性は、地に落ちたといった様相です。
しかし、それらをあげつらい、手をこまぬいて嘆いてみても状況は変わらず、いよいよ悪化の一途をたどるばかりです。まずは私たち一人ひとりが、身近な足下から改善をはかっていくことが大切です。
倫理法人会に入会して約一年が経過するK氏は、入会後まもなく「倫理は実践が大事」と聞き、先輩会員の勧めもあり、日常の身近な実践を徹底して行なってきました。
その実践とは、まさに足下の実践として「脱いだ靴を揃える」ということ。玄関に上がったら、腰をかがめて自らの手を使って、次に履きやすいように「出船」の状態にしておくというものでした。さらには、家族の靴が乱れていたら、何も言わずに整えるということも加え、付き合いでどんなに酔っ払って遅く帰っても、それを終始一貫続けてきました。
これが習慣となり、自宅以外で靴を脱ぐ際にも自然に行なえるようになり、自身の仕事においても一つひとつの仕事の後始末が苦手ではなくなっていました。
さらに嬉しいことには、この実践が新規得意先の獲得につながるということまで起こってきたのです。
K氏は仕出し料理屋を経営し、お祝い事はもとより、法事等でも料理を提供していました。そんな中で、あるお寺に半年ほど前からお取引頂けるようになり、現在では大きなお得意さんになっていました。そのお寺の住職が先日、料理を依頼するようになった経緯を初めて漏らしたのです。
それは見本を持って何度も訪れていた頃のこと、本殿の前で住職に商品の説明をしていた折、たまたま檀家のご家族がお参りにみえ、住職が案内に立った時です。一人残された氏は、いつもの習慣から、ご家族が脱いだ靴をサッと揃えたのです。この時の自然な姿を、住職が見ており、「この人物の会社なら安心して頼むことができる」というのが、決定理由だったとのことでした。氏は驚き、そして喜びつつ、陰日向なく、事業に臨む大切さを実感したそうです。
トップの日常の姿勢が企業の全体像として浮き彫りになることは、様々な企業不祥事を見ても明らかです。「お天道様」という言葉が最近聞かれなくなりましたが、他人の目があろうがなかろうが、自己の良心に恥じない行動をとることが、大切な実践といえるでしょう。
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