2008年3月7日金曜日

今週の倫理 (549号)より トップの二つの目

 景気が好転してきたとはいえ中小企業にとっては、厳しい状況が続いています。そのような中、ここ数年、企業の品格を問われる不祥事は枚挙に暇がありません。

企業は利益を上げなければ生き残ってはいけませんが、品格を失くした経営が、様々な弊害を及ぼし問題となっているのです。今企業は、利潤を追求すること、品格を高めていくことを併せ持ちながら、いかに永続的に繁栄していくかが問われています。

 では、企業が品格を劣化させてしまうのはどのようなときでしょうか。創業時は、しっかりとした経営理念があっても、事業が軌道に乗り、成功を重ねていくうちに傲慢な心が頭をもたげ、次第に志が失われていくケース。或いは、事業が窮地に追い込まれ、苦し紛れに道を外れていくケース。企業が目指すべき指針を見失い、利益を上げることのみが目的となってしまったり、間違いがあっても指摘できない「なれあい集団」に陥ってしまえば、品格はたちどころに地に落ち、その組織に明るい未来はなくなってしまうでしょう。

これらは、神ならぬ人間であれば陥りがちなことです。だからこそ経営者は、眼前のどのような状況にも「ぶれない心」を練り上げていくことが肝要なのです。それにはまず、経営者自身の志に裏打ちされた「我社が目指すものは何か=経営理念」を明確にすることが大切です。そして順境のときも逆境のときも、原点に帰るのを忘れずにいることでしょう。

大丸の創業者・下村彦右衛門は事業理念に、「先義而後利者栄」を掲げました。荀子の栄辱編の中にある「義を先にして利を後にする者は栄える」から引用したもので、「企業の利益は、まずお客様・社会への義を尊び、信頼を得て、はじめてもたらされる」という意味です。「世のため人のために」を企業の品格の根幹としているのです。それが組織の中に浸透していけば、その精神は社会にも社員の心にも響くでしょう。社会からの信頼は、働く人たちの働き甲斐や誇りを支えるのです。

 こうした企業としてのあるべき方向性を見つめる目をしっかりと持ち、経営者の「ぶれない心」をはぐくむには、もう一つの目が必要になります。それは自分を見つめる目、すなわち自己客観力を高めていくことです。創始者・丸山敏雄は、己を客観的に見る法を次のように説きました。

たとえ苦しみの原因はわからなくても、平気で楽しんで―といっても、なかなかむずかしい事が多いが―これを迎える心でいると、間もなく苦痛は消えてしまう、夕立の晴れるように。といっても苦痛は、なかなか喜べるものではない。それは、自分本位であり、己にとらわれているからである。苦痛のただ中にとざされた時は、その中からぬけ出して、外から自分の姿を心を、静かに眺めてみるがよい。
(『人類の朝光』六~七頁)
 
予断を許さない経済状況が続く中で、「企業が進むべき方向を見つめる目」、そして「自身を客観する目」、この二つの目に磨きをかけつつ、あらゆる物事を「これがよい」と受けきっていくとき、活路を拓く入り口に立つことが出来るのではないでしょうか。

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