2008年5月2日金曜日

今週の倫理 (557号)より 伝説の武勇伝が社の伝統を醸成する

『会社の品格』の著者で、モチベーションにフォーカスした企業変革コンサルティング会社を経営する小笹芳央氏は、著書の中で、「そもそも会社とは、人々の欲望を実現するための装置として人間が発明したシステムであり、何よりもまず利益追求が優先され、経済合理軸一辺倒で動く性質をもつもの。よって、もともと会社は不祥事を起こしやすい宿命を生来負っている」と指摘しています。

企業の不祥事が多数報道される昨今。個々の事例を見てみると、「会社」が持つこの性質が野放しにされ、さらには本来この性質を御する立場にある経営者が、目先の利益を獲得せんがために逆に先導してしまったり、見て見ぬふりをした結果であることも多いようです。

しかし、同じ企業内部に身を置く社員一人ひとりは、決して経済合理軸だけで動いているわけではありません。勤労の目的は金銭のみではなく、「誰かの役に立ちたい」「誇りある仕事がしたい」「仕事を通じて自己を成長させたい」など、各人のモチベーションを持っているものです。ここに、会社と社員との意識にズレが生じることとなります。事実、これまで起こった企業の不祥事は、内部の人間による通報という形で露呈したものが少なくありません。

こうした現状を踏まえると、企業の不祥事をトップが未然に防ぐことは当然ですが、適正な利益を目指しつつ、社員の使命感、貢献感、自己成長感などを満足させることが、永続的な繁栄を目指す企業にとって重要なポイントと言えます。

その一つの方途として小笹氏は、「品格ある企業社には決まって、その会社で働く人々を束ねる旗印の役割を果たし、組織内部で語り継がれる伝説や武勇伝のようなものがある」と指摘しています。
これらの伝説や武勇伝は、その企業が窮地に陥った際、当時の社員たちが果敢に取り組んだ末に、社会から賞賛を受けた行動であることが多いようです。

新潟県を本拠地として全国へ冷暖房器具の製造販売を行うC社。昭和三十六年・三十八年の記録的な豪雪により、輸送路が寸断された際、全国から届く石油ストーブの注文に何とか応えようと、猛吹雪の中、社員全員がストーブを一台ずつ担いで歩いたという「武勇伝」が残っています。2キロの道のりを最寄りの駅まで運び、鉄道がストップすると、4キロ先の信濃川にある船着場まで同様にストーブを運び、船で出荷して注文に間に合わせたのです。この逸話は、お客様を第一に思う伝統として、現在の社員にも誇りとして脈々と流れています。

経営学の巨人といわれるドラッカーも、「たとえ天使が社長になっても、利益には関心を持たざるをえない」と言っています。企業にとって利益は不可欠です。ただ、その作り出し方は多様なのです。

「企業は人なり」のたとえ通り、トップから新入社員に至るまで、全員の事業に対する姿勢が社風を作り出し、事業の様々な場面で発揮され、利益にもつながっていくものと心しましょう。

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