2009年3月6日金曜日

今週の倫理 (602号)より 現場を知ることで見えるものがある


機械工具・水道材料卸を営むF社長。「現場主義」をモットーにしている氏が、数年前、本社とは別の市に営業所をオープンさせようとしていた時のことです。

「責任者を出せ」という苦情の電話がありました。電話の主は、オープン間近の営業所の隣で寿司店を営む店主からでした。「工事の騒音と埃で、大変迷惑しているのでなんとかしろ。侘びをいれろ」」と捲くし立てられたのです。

ほとんど担当者任せで、また施工業者を信頼していたF氏は、〈責任者である自分が、事実をこの目で確かめてから〉と思い立ち、ご迷惑をおかけしたことを詫びるため、ともかく現地へ急行したのです。店主に責任者であることを名乗ったところ、「どんな偉い人か知らないが、世の中の常識を知らないネ」「普通は、工事前に挨拶回りするのが礼儀じゃないのかい」と怒り心頭です。

「この埃を見てくれよ」と、店内のいたるところを指し示します。確かに細かな粒子の埃が確認でき、〈これでは、食事処で、しかも生ものを扱うだけに、おっしゃることの一つ一つがもっともだ〉と思ったのです。一時間半ほど立たされたままだったといいますが、平身低頭お詫びをし、今後このようなことのないよう、ご迷惑をかけないことを約束しました。すると、店主もいくらか態度をやわらげてくれたのです。
F氏はすぐさま、請け負っている施工業者の責任者に、また会社の担当者たちにも、事の一部始終を説明し、注意・改善をして工事にあたるよう頼んだのです。

このことでF氏は、いくつか反省させられることがありました。それは、トップとして指示が曖昧であったこと。任せているのではなく実態は放任だったこと。自ら現地へ足を運び、担当者と一緒にあいさつ回りをすべきだったこと等々の気配りが足りなかったことなどです。

すると時同じころ、担当者をはじめ社員たちが、「うちの社長に申し訳ないことをした」と、猛反省をしたというのです。さっそく翌日から、工事現場を中心に向こう三軒両隣を、出社時間前から自主的に集合して清掃を毎日始め出し、さらにはご近所への「あいさつ」の励行も始めたのです。
営業所がオープンしてからも毎日、一貫してその実践を続けました。そうしているうちに、F氏の会社の社員たちも、隣のすし屋を利用することも多くなっていきました。そんなある日のこと、F氏の会社の顧客からこんな話がありました。

「隣のすし屋のおやじが、Fさんの会社の人たちを褒めていましたよ」「いそいそと、毎日、道路の掃除はしてくれるし、あいさつがよくてね、立派な会社だよとニコニコしていたよ」というのです。F氏は、社員たちの自発的な行動に、なんともいえない感慨に浸るひと時だったといいます。

 F氏は一連の出来事を振り返り、倫理法人会で教えてもらったことが、身に沁みたと語ります。「トップは、とにかく現場へ行く。現場へ行ってみないとわからないことが多い。現場の生の声を聴く、空気やニオイを嗅ぐ。肌に感ずるものの中から、判断を間違えることを防げる」と強調します。

 現場に行き、現場の声を集約する。それによって、社の進路がはっきりと見えてくることを心したいものです。

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