組織にはとかく内輪もめがつきものです。
人は、何故もめるのか? 周りを敵と味方に色分けしたがることや、損か得かだけで判断したがること。また、組織を「我が物」として支配したがるからです。
経営者や組織のトップが心しなければならないことは、「すべては預かりもの」という考え方です。会社も社員も、実は「預かりもの」「天与のもの」という、報恩感謝の軸をブレさせないことが経営者をはじめ役職者の大切な心得です。
▽
建設会社の経営者T氏(六九)は、四十歳のときに同級生に勧められ、倫理を学び始めました。T氏は当時、経営上の悩み(とくに資金繰りや社内のもめごと)があり、倫理指導を受けたのです。
すると、研究員から「周りの人に対して、差別した挨拶を交わしていますね。お得意さんはじめとするお金になる人には、丁寧な応対をされるが、逆にお金にならない人には無意識のうちに無愛想な態度をとっていますよ。昔から『用なき人に、用あり』といいます。これからは、前者の人たちに勝るとも劣らぬ挨拶を、後者の人たちと交わしてみなさい」と指摘を受けたのです。
T氏はさっそく、勇気を出して実践に取組んだといいます。社員はもとより、会社に出入りするさまざまな人たちへ、「こんにちは、いらっしゃいませ」と、努めて笑顔で声かけを始めたのです。
ところが、かけられた側の人たちは、戸惑いを隠せなかったといいます。
T氏の豹変ぶりに、毎日のように来社する郵便配達員、宅配業者、ヤクルトレディたちが、〈家でも売りつけようという魂胆かもしれない…〉と勘ぐったため、自然と返す言葉も歯切れが悪かったのです。そうとは知らず、T氏はなおも挨拶を余念なく続けたのです。猜疑心で受け答えしていた出入り業者らでしたが、いつしか不安も剥がれ始め、温かく迎えられていることを実感しはじめたのです。
そんな時、ヤクルトレディのKさんが、一戸建て建築の仕事を紹介してくれたのです。Kさんも様々なお客に商品を届けています。そんな得意客の一人から、よい建設業者を探していることを打ち明けられた彼女は、「それならT社長の会社がお勧めですよ」と熱っぽくT氏の会社を推し、紹介の労を取ったのです。
T氏はそのことを知り、思わぬご褒美をいただいたと感謝の気持ちでいっぱいになりました。「用なき人に、用あり」という言葉をかつて教えていただいたが、まさに本当だなぁ…という思いです。
人の縁は、どこでどうつながるか計り知れません。T氏は、倫理指導で教えてもらったことを改めて噛み締め、実践に磨きをかけ、相談した問題を一つひとつ解決させていったのです。
▽
T氏が倫理と出会って三十年。社員の幸せを預かるという、経営者としての使命に燃えています。周囲の人々を損得勘定で計っていた昔を捨て、現在は多くの人に倫理経営を伝えるべく、倫理法人会の活動を通して貢献する毎日です。
0 件のコメント:
コメントを投稿