2008年2月18日月曜日

今週の倫理(547号)より 経営こそが基本、会社ありて我あり

日本の社会はいま、あらゆる分野において、急激な変化の中にあります。以前はよく十年一昔と言われていましたが、現在では五年一昔どころか、ITなどスピードの速い業界では、一年一昔といった状況になっています。
 このような経営環境下で生き残っていくためには、経営者としての自覚を常に高めつつ社員をまとめ、時代の変化に一丸となって対応していかねばなりません。「組織は人なり」と言います。人には場があり、その場の中には立場があります。誰もがこの立場に徹した職場は、強い組織力を発揮して、いかなる経営環境下でも勝ち抜いていけるのです。
 その場の中心にいるのが経営者であり、社員から見られていることを忘れてはなりません。「社長が社員を見抜くには三年かかるが、社員が社長を見抜くのには三日で十分」と言われる所以です。したがって、経営者の心・態度が、そのまま社員教育になり、経営状態に現われてくるものなのです。
 今から十二年前、T社長は父親から印刷会社を受け継ぎ、厳しい状況のなかにも順調に伸ばしてきました。当初五十数人だった社員も、現在では二百人を越す、結構な規模になりました。地域社会からの信頼も厚く、地域行政のイベントなどでは、来賓として挨拶に立つことも多くなっていきました。
 やがて、地域住民より市議会議員選挙に出馬してほしいとの要請を受け入れたのです。選挙の結果は、上位当選でした。それからというもの、T社長は社員と一緒にいる時間よりも、住民といることのほうが多くなりました。そればかりでなく、会社にいても住民からの電話がひっきりなしです。もともと責任感の強いT社長は、議員一年生とは思えない働きでした。
 ところが社員には、次第に不満が募っていき、それが印刷ミスや顧客とのトラブルなどに現われ出したのです。T社長に直接苦言を呈する役員もいたのですが、「わかったわかった」という生半可の対応に終始しました。そんな状況の中で、とうとう会社を倒産の危機に陥れるような、大変な事故が起きたのです。
 そのとき父親は、「一件の重大な災害の陰には、二十九件の軽微な災害が潜んでいる。さらにその背景には三百のひやりとしたミスがある」という「ハインリッヒの法則」を話してくれました。それは、経営者としての心を見失っては、危機に向かっている空気など感じるはずがないということでした。
 この危機を乗り切るためには、経営者の自覚を取り戻すために、社員にこれまでの心・態度をわびること、さらには会社には一番先に来て、社屋に向かって大きな挨拶をするだけでなく、社員を明るい挨拶で迎えることでした。はたしてT社長は、必死になって実践に取り組み、なんとか経営危機を乗り越えることができたのでした。また、市議会議員としての活動も、以前より短い時間でできるようになりました。
 中国の古典に、「心ここにあらざれば、見るものも見えず、聞くものも聞こえず」とあります。経営者としての自覚がなくなると、仕事における気づきが低下するだけでなく、社員の報告・連絡・相談に対しても答えられなくなるのです。経営者は会社以外にも、家庭の場、趣味の場と、様々な場を持つものです。だからこそ、その「場」に安易に流されることなく、「けじめ」をしっかりとつけて、人生の柱たる会社に心を置くことが大切です。

0 件のコメント: