2007年11月21日水曜日

今週の倫理 (534号)より 絶対信頼こそが良き後継者を生む

経営者の最大の課題は、企業の存続と発展にあります。
企業は公器であり、創業者といえども自分の思いのままに会社を左右することなど出来ません。したがって、経営者にとって後継者の育成は大きな任務の一つとなります。

 東京市長として関東大震災後の復興に取り組んだ後藤新平は、「事業家は、金を残して死ぬのは下だ。仕事を残して死ぬのは中だ。人を残して死ぬのは上だ」という言葉を残しました。「人を残すこと」つまり、すぐれた後継者を育て上げることは、企業を永続的繁栄に導く最大の要件となります。

 金沢市でテイクアウト専門の寿司店「芝寿し」を経営する二代目社長・梶谷晋弘氏(法人スーパーバイザー)は、四十歳で社長に就任しました。しかし「社長継承記念と創業三十年」を期に、商品増産をはかるため新工場を建設したにもかかわらず、逆に減産の方向に進んでしまいました。

その原因は、新しい機械に慣れていなかったことにあり、そのうち慣れるだろうと高をくくっていましたが二、三週間経過しても生産量が予定通り上がらず、お客様からのクレームの電話が直接社長のところにかかってくる始末です。

 当時、年商二十億円の半分を掛けた投資でもあり、「何としてもこの窮地から脱出しなければ」と決意を新たにし、新工場の会議室にベッドを持ち込み、なぜ生産が計画通り進まないのかを自分で確かめたのです。    

 新工場が稼動し始めて四カ月目のある夜、いつものように生産ラインを見回っていたとき、腰が折れ曲がり足取りもおぼつかない年輩の女性の後姿が目に入りました。「人手が欲しいのは分かるが、腰の悪いお年寄りを働かせて、もしケガでもされたらどうする」と工場長に言うと、思いがけない言葉が返ってきました。

「あの方は社長のお母さんですよ。一カ月も前から深夜に出勤され、お手伝いをしてらっしゃるのです。息子である社長には言わないで欲しいと、口止めされています」

 百名近い女性が同じ白衣を着て働いているため、まったく気がつかなかったのです。来る日も来る日も家に帰れない息子を、黙ってみていられない母の思いが、パートさんと一緒に働かせたのです。社長はその時、母の小さな背中に手を合わせて、「一日も早く工場を稼動させます」と誓ったのです。

その後、従業員一丸となって取り組んだ結果、順調に稼動し始めました。一方、相談役の父親は「息子が直面している試練は、必ず本人が克服しそこから何か大きなものを学び取っていくに違いない」と、子に対する絶対信頼の心を持ち続けたといいます。母と父による「動」と「静」のサポートが、息子をさらに成長させたのです。

 人の育成に最も大切なものは「信」です。後継者に対して信の愛情を以て接するとき、道は拓かれます。「信は動いて愛となる。そして、すべてをうるおし、すべてを充たす。信には欠けるところがない。信は成し、信はみたす」(『万人幸福の栞』)のです。 

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