2007年10月31日水曜日

今週の倫理(531号)より 恩の自覚は純情への登龍門

静岡県御殿場市にある富士高原研修所では毎年、「企業セミナー」が開催されます。
昨年度は約千名の経営者が訪れ、倫理実修を通して自他共に本気で向き合い、新たな発見と感動を促し、魂の洗練の場としています。

当セミナーでは、倫理経営の根幹となる〈不易〉の学修として、注がれた愛を体感し、実感するカリキュラムが組まれています。倫理学習と実践を精力的に行なった二日目の夜には、両親や恩人、また身近すぎて感謝の言葉を面と向かって言えない方に、手紙に記すという形で感謝の思いを吐露し、さらに自覚を深める実習があります。
経営者としての辛苦と感謝が克明に記され、受講者の共感の涙を誘います。

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友人の強い勧めで初受講したM氏は、建築会社を営む二代目の社長として、十数年にわたり手腕を振るってきました。M氏が先代である父へしたためた手紙の一説です。

「負債を抱えたまま、あの世に旅立ったあなたを私は恨んだ。その後、家族と兄弟がどんなに苦しんだか。孤独だったか。だが、ただ父への反骨精神で今まで経営し、ようやく会社の基盤が固めることができた。倫理を学び、父が死に直面した時の真情になりきって省みた時、残る親族に対して胸が張り裂けんばかりの思いがあったに違いない。今おかれている立場から考えればよくわかる。親父の心を今まで振り返ることのなかった自分を許してほしい。研修後、墓参りにいくよ。その時は、子どものときのように叱り飛ばしてくれよ」
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毎年のように受講しているT氏。妻への手紙を読み上げ始めるなり、込み上げる感情を抑えることができません。
「今まで悪かった。お前が癌であることを医者から聞かされて、愕然とした。研修所で学び、妻あってのわが命だと思い、これまでつきあってきたが、今回のことを聞いて、お前がいかに俺にとって大切であるかわかる。先に行くな。会社が傾くまで好き勝手にしてきた俺がなるならわかる。なぜ、お前なんだ。治るためなら俺は何だってするよ。元気になってお前の好きな海外旅行にいこう」
あとは…言葉になりませんでした。

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 わがいのちに注がれた愛を実感するとき、心が洗われ、気力が腹の底から湧いてきます。気力の根本は、恩の自覚にあります。その気力こそが、己を変え、人を感動させ、運命を変え、そして苦難をもろともしない不動の信念へと昇華します。この報恩の心こそが、使命の自覚、個性の開花へとつながっていく原動力となるのです。
『万人幸福の栞』第十三条で、丸山敏雄は「ほんとうに、父を敬し、母を愛する、純情な子でなければ、世に残るような大業をなし遂げること事はできない」と喝破し、純情になる道筋を示しています。
父母・夫・妻・子どもあってのいのちであることを噛み締め、今日一日を完全燃焼し、共尊共栄の道を歩んでいきましょう。

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